【想い】

2月14日、いわゆる【バレンタイン】と呼ばれる、
乙女たちの聖戦を目前に控えた日の昼下がり。

3人の少女の姿が甘味茶屋にあった。

3人の少女とは、
一切の感情を捨て去ることが求められる忍である、同期くのいち3人組みサクラ・いの・ヒナタだ。

彼女らも、その日ばかりは忍である前に一少女として、想いを寄せる少年にチョコを渡す気満々らしい。

特に、日ごろから【うちはサスケ】に想いを寄せていることを隠そうともせずに、皆の前で取り合っているサクラとイノの気合の入り方は凄く、
どちらが早くサスケにチョコを渡すか言い合いになっている。

そして、オロオロと見守るヒナタの図が出来上がっている。


そう、これを見る限り、彼女らを、感情なく冷酷であるはずの忍、と結びつけるのはとても難しい。
どこを見ても、普通の恋にあこがれる、歳相応の女の子。

しかし、それは当然のことだ。
一切の感情を捨て去ることが求められる…といっても、それは一般的な忍のイメージであって、
確かに仕事のときは、きっちり感情を殺すことを求められ、それに従い動くものの、仕事がオフの時には一般の人と何ら変わりない。

むしろ、オフの時間まで感情を殺してしまったら、その違和感から忍であるとバレてしまうだろう。
一般に溶け込むことも忍に求められるスキルの一つだ。

ただし、この少女たちは今だ忍に成り立てで、そのようなスキルを生かして行動している訳ではなく、限りなく素での行動だったりするのだが…。


まぁ、ともかく3人の少女は…

たっぷり入った気合とは裏腹にとてつもなく悩んでいた。


彼女らの悩みは、想いを伝える為の手段であるチョコレートにあった。

この年頃の少女だ。


想い人に、自分が自ら作ったチョコを食べて欲しい。

むしろ、食べさせたい。


なんて、思いを持っていても不思議でも何でもない。


3人が集まった理由がバレンタインについて話をする為なので

そうなれば、お互いに上げる相手が分かっている今、

必然的に相手に渡すチョコの話題に落ち着くのはもう当然のことだった。


ちなみに、上記にも書いたとおりサクラとイノはアカデミー以来憧れの感情を抱き続けているサスケに。
そして、ヒナタは、これまたアカデミー以来憧れの感情を抱き続けているナルトに…だ。


「やっぱ、上げるとしたら手作りがいいわよね〜」

【簡単おいしい焼き菓子のレシピ】という題の書物を手にサクラが言う。

「だよね〜」

それにイノが同意を示すのだが、その表情は暗い。
なぜか、「ははっ」と乾いた笑みを漏らしため息をつく。

「う…うん。私もそう思う。でも…」

ヒナタは、テーブルの上。
3つの餡蜜とお茶に囲まれるように置かれた、黒い物体たちに目をやり、
引きつった表情で、イノと同じようにため息をつく。


そう。
この黒い物体こそが、恋する乙女たちを悩ませている大元だった。


実は、先ほどまでサクラの家の台所を借り、3人でバレンタイン用のチョコレートクッキーを焼いていたのだ。

本を見て、あーでもない。
こーでもない。


と、試行錯誤して…。
遂に出来上がったのが、いっそ毒々しい程に黒く炭化した、今はテーブルに置かれたブツだ。

実は、この場所にいるのも台所から放たれる何ともいえない悪臭に耐えかねてのことだった。



そもそも、何故このような事態に陥ったかといえば。

お菓子作り初心者なヒナタが、今年こそ想い人であるナルトに想いを伝える為、手作りのチョコを作ろうと思い立ったことから話は始まる。

作ろう、と思い立ったまだでは良かったが、日向本家でチョコを作るのは、日向家の当主である父の手前躊躇われた。
そんなことをしているのなら鍛錬の一つでもしろ、と言われるのが目に見えている。

では、分家ではどうだろう。
一瞬、最近和解したネジの顔が浮かんだが…本家でも分家でも余り意味がないような気がして却下した。
(ただ、ネジに言えば協力はして貰えただろうが…)

そう言う訳で、同じアカデミーのくのいち組みであり、同期で下忍になったサクラとイノを頼ったのだ。


バレンタイン1週間前の合同演習後、サクラとイノを捕まえたヒナタは、

「あ…あのね。バレンタインにチョコを上げたいから…どちらかのお台所を貸して欲しいの…」

無理だったらいいけど…、と真っ赤な顔を俯かせ協力を依頼した。



そうすれば、2人とも、絶句とともに驚きの表情をした。

実はこの時、
いつもオドオドしているだけで行動に移せなかったあのヒナタが!!!

聞く者が聞けば酷い言葉を、内心一字一句違わずに心の中で叫んでいたのだが、
声に出していないため、ソレを知る者はいない。

ただ、この件で2人が受けた衝撃の強さが計り知れるだろう。


黙ってしまった2人に、不安げな表情をするヒナタ。

「あ…あの…」

思わず漏れた声に、2人の時間は動き出した。


「あ・・・うん、えっと、ごめん」
「あはははは」

内心酷いことを思っていたことを誤魔化すように言ったのち。


実は、ヒナタが誰に気持ちを寄せているのか知っている2人は、
内気な少女の恋を、かなり応援していた。

まあ、自分に害がない(サスケ狙いでない)というのもあるが、
何より、この少女の恋は見ていてじれったいのだ。


「台所…ね。うん、良いわよ」

そんな思いがあったので、ようやく一歩前進しようとするヒナタに、喜びを感じつつイノが逸早く了解を口にする。

「あ、うちも良いけど…。ねぇ、どうせなら皆で作らない?」

それに、引きつられるようにサクラも了解と、そして発案を言った。

「私も、今年は手作りの予定だし…イノ、あんたも確か手作りにするって言ってたわよね?」

そう、少し前に今年のバレンタインの話をイノとしていた時に、
サクラが「今年は、サスケ君をGETする為に手作りで勝負するわ」という言葉を受け、イノも触発された経緯があったのを覚えていての言葉だ。

「あー、うん。いいんじゃない、それ!!」

「じゃ、決定で!ヒナタも良いわよね」

最後はここまで、全く喋らなかったヒナタに確認を取り

「う…うん。えっと、ありがとう」

ヒナタの嬉しそうな笑みに、2人微笑返した。

「よーし、がんばろー」

っと、そんな訳だ。



「あー。でも、皆初心者だとは思わなかったわ…」

中でも一番、女の子らしい女の子であるヒナタが料理音痴である事実に驚いた…と内心愚痴るサクラ。

「え…えっと、ごめんなさい」

サクラの心の声が通じた…訳ではなく、自分が言い出した為の大惨事に責任を感じるヒナタがあやまる。

「あー、ヒナタのせいじゃないって。そもそも、皆作る気でいたんだから1人でやっても3人でやっても結果は変わらないって」

イノはそう言って、落ち込んでしまったヒナタを慰めた。
それにサクラも同意を示すように頷き、

3人、同時に深い深いため息をついた。


それからも、色々な意見が交わされて…
それでも、手作りを諦め切れない3人は途方にくれていた。


このままでは、あの2日に迫るバレンタインでチョコを上げられない。
でも、買いチョコは義理のようで嫌だ。


そんな思いに雁字搦めにされた3人が…
ふっと視線を外に向けると、

甘味茶屋の目の前を行く黄色い髪が印象的な少年の姿が目に付いた。


「あ、ナルトだ」
「ホントだ。おーい、ナルトー」


サクラとイノが店の中から存在を示すように手を振りつつ、呼び止めるように大きく声をかける。
ちなみにこの時、ヒナタは、突然の想い人の出現に頬を染め俯いていた。


ナルトは、その2人の元気の良い声に導かれるように、(無視するとあとが怖いともいう)
声の元となる少女たちが座るテーブルへとトテトテと近づく。

「どうしたんだってば?」突然、呼ばれたことに不思議そうに小首を傾げて問う。

「ちょっと、ナルト!私たちが用もなくアンタ呼んじゃ悪いっての!?」

「えーっと、サクラちゃん。そう言うことじゃ、ないんだってば。ただ、ちょっと…」

「ちょっと、何よ!!」

「3人が一緒って珍しいなーって思っただけだってば」

ナルトは、ギロリっとイノに睨まれ、口元を引きつらせつつ一歩引く。

サクラもイノも「ちょっと、それ。どーいう、意味よ!!」と思わなくもないが、常に2人でつるんでいるサクラとイノとは違い、
家のこともあってか、あまり他人と任務意外でいることのないヒナタがオフの時にも一緒にいることは珍しいことなのであえて突っ込まないことにする。

ヒナタはもとより、突然黙ってしまった2人に再度小首をかしげたナルトは、

「どうしたんだってば?」不信そう3人の顔を見比べながら訊ねた。

そして、「そういえば、ヒナタ少し顔赤いってばよ?体調ふりょーなら帰ったほうが良くないかってば?」
ヒナタの顔に目を止めたときに、見たヒナタの顔色に心配そうに言葉をかける。


「う…ううん。えっと、体調はいいから…大丈夫。え…えっと、あの、ありがとう…ね…」声をかけられ、先ほどよりも顔を真っ赤にし俯くヒナタに、

ダメだこりゃ…と、サクラとイノが同時にため息をついたのは言うまでもなく。

やはり、理解不能と言わんばかりに首を傾げたナルトに…テーブルの上に置かれた黒い物体が目に止まった。

「何だってば?」黒い物体の1つを手に取り、シゲシゲと見つめる。

そんなナルトに、今度はサクラとイノの顔まで赤くなってしまって…。


俺、何か悪いことしたってば…とナルトは内心で大いに困った。

「えーっと、3人とも…」恐る恐る声をかけようとしたナルト。
しかし、それはいきなり叫ばれた言葉によってかき消された。

曰く、

「あー!!!そうよ!!私、なんで気づかなかったんだろう!!!!」

突如、響く大きな声はサクラのモノで、
それには残りの3人、かなり驚いたのだろう。

わ、とか、きゃ、とか、短い悲鳴が上がる。

しかし、今のサクラはそんなことお構いなし。

「ナルト、あんた、料理得意だったわよね!!!」

ガシー

ナルトの両手を、音がする程、強く握るサクラの笑顔が…その気迫がとても怖い。

「え…えっと、何の話だって…」

俺が料理なんてできる訳ないってばよ、っと続くはずだった言葉は、

「ああ、ナルホドねー」

という、イノの心得たっと言わんばかりの大きな声により、再度さえぎられる。
隣を見れば、ヒナタもしきりに頷いていて…。
(ナルトにあげるチョコをナルトに習うのは複雑だが、背に腹はかえられなかったらしい)


「「ドベじゃない、ナルトは料理の腕ピカイチよね!!」」

なんて、サクラとイノに板ばさみにされた、ナルトは…
口元を引きつらせコクリと頷くしかなかった。


実は、【ドベのナルト】は演技で、
実際は里一番の実力を保持する暗部の忍【葬火】であることが、とある同期の下忍3班合同の任務時に起きた事件で発覚してから、もう数ヶ月。


ばれてしまったら仕方がないと、火影の口から明らかにされた
隠された実力は元より、知らなかった里の過去。

思いもしなかった知りえた事実に、はじめこそギクシャクしていた関係も、
事実を受け入れてしまった今では良好だ。


逆に、事実を知る前よりも今の方が良いお付き合いをさせて頂いている…と言っても過言ではない。

今では、実力1番、だけど日常生活では地でドベを行くナルトを心配して口うるさく説教までする位には仲が良いのだ。



そんなナルトが、以前一度だけナルトの秘密を知る9人
(この場にいるサクラ・イノ・ヒナタはもちろんのこと、サスケ・シカマル・チョウジ・キバ・シノ(加えて、ネジも後から知った(のは、ヒナタが嘘をつけずにばれてしまったせいだ))
を、本宅(ボロアパートは目くらまし)に招いて、食事会をしたことがあった。


否、女の子2人(もちろんサクラとイノ)に押し切られての招かされた…とも言うのだが…。
その時、ドベではないナルトは「招くからにはおもてなしせねば…」という使命感に駆られ、料理に腕を奮ったのだ。

その料理の絶品といったら、日ごろ美味しいものを食べなれているはずのヒナタとネジを黙らせ、食にうるさいチョウジを感動させたくらいだ。
これは、かなりのモノといっていい。

(そんな料理の腕を持つナルトが仲間たちによって【生活習慣ドベ】と言う、
ヨロシクナイ称号を戴いてしまったのは単に、仕事が忙しくて日常生活に構っている余裕がないうちに
どんどん、日常生活のアレコレが面倒になってしまったせいである)

まぁ、そんな事があってナルトの料理の腕を知っている彼女たちは瞳を輝かせながら、

「ねぇ、ナルトってお菓子作りもいけるのよね!!!」

疑問ではなく、確認なのは、
何故なら、食事会の最後の締めにと、何やらやたらとこった手作りケーキを披露してくれていたのだから。


「さ…さくらちゃんも、イノも声が大きいってばよ…」
一応、機密にも触れるんですけど…と、しかし、もう既に諦めきった声を発したナルトを…
少し同情の眼差しで遠くから見つめる、仲間の視線があったのだが、残念ながら4人ともにソレに気がついた者はいなかった。

誰も、好き好んで厄介ごとに関わろうとは思わないのだろう。

★★★

その後、
とりあえず、話は聞くから…と、場所の移動を提案したナルトによって、ナルトの本宅へと連れてこられた3人は、
それぞれ事情を説明した。

「…と、言う訳でバレンタインにサスケ君にチョコレートクッキーをあげたいから協力しなさい!!」

びしーと命令口調で〆られた説明に、
今まで、人並み…な生活を送ってきていないナルトはバレンタインの意味こそあまり理解しい得ぬものの、
とりあえず、サスケに渡すお菓子が作りたいのだろう…とあながち2人にとっては間違っていない解答を導き出して頷いた。

ドベであっても、なくても女の子には一切弱いナルトの一面がはっきりと伺える。

(何故、ナルトがこのような答えを導き出したか…といえば、ヒナタが全く喋らなかったからだ。
もしこの時に、思ったことを口に出していれば呆れを含む2対の冷たい視線に身を切られていただろう)


ただ、合意に至ったのがもう夕暮れ。

今日はもう遅いから明日にしましょう、という言葉でこの場は一旦お開きになった。


そして、次の日。
下忍の任務が終わった4人は、今日使う材料を仕入れつつ、ナルトの本宅へ赴いた。


その後、暫くして響き渡るナルトの声が…3人のお菓子作りの腕を正確に示していて…

常温に戻すはずのバターを何故か沸騰させたり、
湯銭にかけるはずのチョコを強火で煮たり、
小麦粉を振るいにかけようとすれば、盛大にこぼしたり、
更には、卵すら上手く割れないので、黄身と白身に分けるなんてどんでもない。

など…。

それでも、何とか市販で売られているような【チョコレートクッキー】が出来上がったのは、ナルトが見放さず我慢強く教えた結果。
そう、彼の努力の賜物だろう。


「すごーい、ちゃんと出来た〜」
と、出来上がったクッキーを前に喜び合っているサクラとイノ、そして、嬉しそうにクッキーを見つめるヒナタ。

ナルトの表情もどこか嬉しそうだ。


トッピングに取り掛かった3人に、ナルトはお茶の準備をする。

「サスケ、喜んでくれるといいですね」

ガーデニングが趣味のナルトらしく、庭で育てたハーブを使った疲れによいハーブティを、にこやかに差し出しながら言う。

「そうねー。あ、でもヒナタはサスケ君じゃないわよね〜」

「え…あ…う…うん…」

「え?そうなんですか。」

からかうように、しかし、優しい眼差しでイノが言う。
その言葉に、3人とも、サスケにあげると思っていたナルトは意外そうにヒナタを見た。
ヒナタは言わずもがな、真っ赤だ。

その光景に、サクラは少し悪戯心が刺激される。

「そうよー。そういえば、ナルトは好きな人っているの?」

「あー、それ私も聞きたーい。って、でも仕事バカで女の子の気持ち一つ気づけない鈍いナルトじゃなぁ」

「あぁ、それもそうね…。何か、恋心そのものをまだ持ってなさそう…」

心得た!とばかりにイノが話に乗り、話題づくりを完璧にこなす。
2人ともナルトの性格は熟知しているので、彼に想い人と呼べるような人はまだいないと踏んだ。(それは正しい)
その上で、2人はチラリとヒナタを見れば、想い人の好きな人、という話題と相まって興味津々な表情だ。

其れを見て、よっしゃ、もう一押し、とサクラは口を開く。

「えーと、じゃぁ、好みのタイプはとかは?もちろん、あるんでしょ?」

少女たちの熱い視線がナルトへと集中する。

なぜ、このような話題になったのだろう…ナルトはここ2日での自分の境遇に頭を抱えた。

「えーっと…」

中々、喋りが進まないナルトに。

「あーもう!!色々あるでしょ!!!女の子らしいとか、おしとやかとか」

焦れたイノが、明らかに隣でそわそわしている少女の特徴をさり気なく挙げる。

「そうよ!ナルト!!!あ、おっとりした子とかもあるわね」

サクラもまた、其れにノリノリでのった。

なんだか、もう勘の良ければ誰のことを言っているのかわかるようなそれだ。

…が、仕事バカで女の子の気持ち一つ気づけない鈍いナルトには、それが誰のことを指すのか気がつけない。


気づけないからこそ、何故か必死さをかもし出すサクラとイノに首を傾げつつ、それでも悩んだ結果

「傍にいてくれるだけで落ち着く人…かな」

少し目を細めて言う。

そして、

「そういえば、ヒナタは誰にクッキーをあげるんですか?」

なんて、言うものだから3人とも疲れたように大きなため息を漏らしてしまった。

ただ、ヒナタだけはそれでも「傍にいると落ち着く人かぁ」なんて考えていたりもするが…。


そうして、その後は和やかな雰囲気の元でお茶会も終了し、

「また、明日ね〜」

という、元気な声を残し3人は帰っていた。



そして、遂に訪れたバレンタイン。

折り良く今日は合同演習で、終了ののちに繰り広げられるサクラとイノのサスケをかけての一大バトル。

の背景で、自分はチョコをもらえるかとソワソワする(バレンタインの意味を知らないナルトは含まれない)男子勢と。
やはり、いつナルトにチョコを渡そうかソワソワしているヒナタの姿が演習場にあった。


そこでナルトは、バレンタインとは、好きな人に、好きですという想いを込めてチョコを渡す日だということを知り、

「ああ、ナルホド。だからですかぁ」とちょっと遠い目をして、男性陣を不思議がらせる。
その脇では、ようやく観念してサクラとイノから可愛らしくラッピングされたチョコレートクッキーを受け取ったサスケの姿と嬉しそうなサクラとイノが笑いあっている。
ライバル云々言ってもやはり気の合う友達の彼女ららしい一面だ。

その後、サクラとイノが男性陣に明らかに市販物である義理チョコを「あんたらのは義理なんだからね」と言いつつ配り、
その騒ぎに便乗し、ここぞとばかりにヒナタも…あの日作った本命チョコ(クッキーだが…)をナルトに渡すことが出来た。

まぁ、ナルトに想いが伝わったといえば…

サクラとヒナタが、男性陣にチョコを配っている姿を見ながらなので、そう言うもの(義理)だと思い込み、
しかし、義理でも何でも、今まで行為を向けらることのなかったナルトは、純粋な嬉しさからニッコリと嬉しそうに笑った。

つまり、伝わっていない。

その事が、分かりすぎる程わかってしまったので、サクラとイノはヒナタにエールを送る。
そんな、ヒナタは…でも負けない、なんて心の中で思ってたりなんかして、少女はこの一件でちょっとだけ強くなったようだ。


ちなみに
そんな人間関係の構図に…
男性陣では、ただ1人気がついていためんどくさがり屋の男が、
ため息をついたのだがそれに気がついた者は誰もいなかった。



その夜。
昨日の賑やかさとは打って変わり、物静かなナルト邸(本宅)にナルト以外の姿があった。

勝手知ったるっという態で、リビングに置かれたソファーに腰掛けて、ここでしか読めないレア度の高い本を読んでいる。

その人物の邪魔にならないように、ナルトは手にした2つ分のコーヒーの入ったマグカップと、
お菓子の盛られた皿が1つ。
それらが乗ったおぼんを手に近づいた。

そして、ソファー前に置かれたミニテーブルに持ってきたモノを移すと、
今度は、気にせず座って本に集中している人物の隣に腰を下ろす。


ゆっくりと、その人物の肩に頭をもたれ目を瞑り

「やっぱり」

そんな言葉を呟いて…。

★★★

数時間後。
本を読みながら無意識のうちに、ミニテーブルの上に置かれたマグカップを手に取り、コーヒーを飲んでいた人物は、

その瞬間、「あれ?」という声を出す。

いつの間に、コーヒーなんて置いてあったのだろう?

そもそも、もうなくなりかけているので、何度か手にとって飲んでいたのだろう…と思う。

全く気がつかなかった…。

それを入れてくれたはずの人物が、自分にもたれかかり寝ていることすら気がつかなかったのは、
人の気配に敏感なこの人物にとっては驚くべきもので…


そう言えば、何か呟きを聞いた気がする。と考える。


「確か…やっぱりっとか言ってた気がするが…。…つーか、何がやっぱり何だよ?」


訳が分からない。
隣を見ても、答えが返ってくるわけでもなく、深く寝ている彼を起こすのも忍びない。

つーか、暗部の癖に無防備に寝るなよなぁとか
まぁ、それだけ信頼されている結果なんだろうなぁとか

以前、「誰かが傍にいると落ち着いて眠れない」と言っていたのを思い出し、内心突っ込みを入れる。

そして、この状態をどうしたものか…と視線をさまよわせ…

ミニテーブルを見れば置かれているのは
ナルトがあの日買ったチョコの余りで作った、甘さ控えめのチョコレートシフォン。

客人の好みに合わせた其れは、食べられることなく客人の側に置かれていた。


その人物は…
いったん、読みかけの本を、しおりを挟んで閉じて膝の上においたあと。
おもむろに其れを口に含み、
自分好みに合わせたそれに目を細めつつ

「メンドクセーなぁ」

そう、ボヤキ口調で苦笑する彼の心理は彼のみぞ知るものだった。

                          END





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