『かわらずかたよらず』
「この空気、今ビニールに入れたら来年には古い空気になってるんですか?」
彼は、突発的に笑いの神を呼び出した。
「・・・つ、なよしっ・・・」
「何涙目になるほど笑ってるんですか恭弥さん・・・」
紅白歌合戦も大詰めで、これが終わったら行く年来る年を見るかそれとも他のチャンネルのカウントダウンにするかと相談していた矢先、彼の脳は素晴らしすぎる発想を生み出した。
「じゃあ年が変わった瞬間ここの空気は全部取り換えないと新しくならないのかい?」
「え、」
「不変なものも、世の中にはたくさんあるんだよ」
なんて言いながらもまだ笑いが止まらない。
くすくすと笑い続ける僕を不満げに見つつもか彼はいまだ意味を理解していないようで、新しくないだのビニール袋で実験するだのぶつぶつと繰り返していた。
結局、紅白が終了するという時になってでも彼はまだ、その思考にふけっていたようだ。
「じゃあ、僕がいい実験を教えてあげる」
「どんな?」
「空気、味わって体験したら?」
「・・・恭弥さんって時々突拍子もないこと言い出しますよね」
君にだけはそれ、言われたくないな。
「ほら、カウントダウンが始まったからちゃんと空気を吸っておいてね」
「・・・はい」
不満げなその声が面白くて、僕はまた笑みを浮かべた。
彼といると、楽しいことだらけ。
退屈知らずだ。
隣から、スゥという小さな音が聞こえる。
彼が、僕の言葉通りに空気を吸った。
本当にするか・・・
笑いが相変わらず僕は止まらないけれど、あとは、明日・・・来年になれば準備は完了だ。
「あけましておめでとうございます!!」
テレビから遠く声が響く、思わず自分を言おうとした綱吉をその場に押し倒して、僕は、深く、深く唇を塞いだ。
くぐもった声が響いても、息継ぎをせずにそのまま。
「ん・・・ぁ・・・っ・・・」
「・・・そろそろ、いいかな」
十分に堪能・・・ではなくて実験を済ませて唇を離すと、彼は当初の目的なんて忘れて甘えたかわいらしい顔を僕へ向けていた。
今年最初の情事でもしたいのだろうか。
全く・・・困った子だ。
「あ、の・・・」
「分かった?」
「は?」
「古い空気との違い」
彼の知りたかったこと、新しい空気になるとかそういうこと。
それを教えてあげるために僕は体を張ったわけだ。
「・・・そんなの、分かるはずないです」
「へぇ?」
「分かったのは」
「うん」
分からない、というと思ってたのに何か感じ取ったのだろうか
その超直観で。
「・・・恭弥さんのキスは今年もうまいんだなぁ・・・ってことが」
「っ・・・」
この子・・・バカだ!
去年と変わらず、いや進化したバカだ。
「それは、良かったね」
「はい!」
・・・こんな可愛い生き物を僕は知らない。
去年が今年に変わっても、もしかしたら来年も変わらないのかもしれない。
不変を思い知らされたのは、どうやら僕のようだった。
変わらないというのはやはりいい。
変わらなければいけないこともあるのは当たり前なのだけれど、それが何をもたらすことによってどうなるかが、やはり大切。
だから、変わらないことによってどうなるかも大切。
「今年も、よろしくお願いします」
「僕こそ、ね」
一年に一度だけ言うこの言葉を、来年も聞けるなら、
僕はこの不変も、君とともに愛していこう。
今年も、君と二人で。
フリーだったので強奪してきました♪